最近、個人系の自動車屋(街の修理屋系)がとてもヤバい。知っている限りでも、何軒か閉めているところもある。
なぜなのか。俺なりに考えてみた。
もくじ
- ヤバイ原因は何か?
- 若年人口が減っている
- 自動車を欲しくないという人が増えた
- 自動車の基礎性能が向上
- 部品の品質も劇的に向上
- 廃車までの売上期待値が25万円しかない
- Webの普及による価格適正化
- まとめ
※この記事の内容は2014年に書いた。現状とズレている可能性がある。実際にどうなったのか確認しながら読むと良いかもしれない。
※最終更新 2019/4/10 2021/9/30 リンク先、誤字脱字、文体などを調整。
ヤバイ原因は何か?
「ヤバい」のには必ず何らかの原因がある。本件で言えば、客が減っていることだろう。
俺が考える、客が減る主な理由は・・・
- 若年人口が減っている(若者は自動車を買うとぶつけたり壊したりしやすい)
- 自動車を欲しくないという人が増えた(80年代~90年代は欲しくない方が少数派)
- 自動車の基礎性能が向上(メンテナンスフリーで整備不要)
- 部品(特に海外)の品質も劇的に向上(交換頻度低下&価格が適正化されDIY需要を喚起)
- Webの普及による価格適正化(流通や整備内容が透明化したため根拠があいまいな予防整備とかボッタくりが通用しない)
あたりだろうか。各要素について順番に考えてみよう。
若年人口が減っている
これは、日本の少子高齢化が原因。
国家レベルの難題のため本件は省略する。しかし、重要な要素(次項に関わる)。
自動車を欲しくないという人が増えた
巷では、価値観の多様化だ。という。確かにそれはあると思う。
しかし既に、多様化どころか価値観は変化してきている。俺が思うところ、自動車が欲しくないという原因は、「たまり場」から「直接コンタクト」にライフスタイルが変化したから。
昔(90年代後半まで)は連絡を取る手段と言えば家に電話するか手紙(又は書き置き)を使うしかなく、とりあえず「たまり場」に行って、そこからどこかに行く。
というスタイルで行動するほかなかった。実際にアブないデカや、シティーハンターあたりを見れば解るが、「たまり場」に帰ると(警察署とか駅掲示板に)メモがあって「○○埠頭 ○○時 まつ」とかいう描写が出てくる。
今、そんなことやってる人はほぼいない、みんなスマホかケータイ持ってるから。メール入れるか、ラインで呼ぶか、フェイスブックやツイッターで「〇〇時に〇〇行きます。集合」で終わり。あとは現地で調整。
メモが置いてあったり、人がいたりする場所、すなわち「たまり場」に行く必要がない。
たまり場にはツール(ネタ)が必要
「たまり場」へ行くには交通手段が必要で、更にそこから遊びに行く(仕事の場合もある)にはまた別の交通手段が必要になる。
この時、とても役にたつのが自動車だった。そして、スケベ心が精神の90%を占める若者は、どうせなら一番カッコいい自動車に乗って行きたいのである。←ココ重要
また、たまり場にたまっている間は、自動車を見せびらかすのがデフォ。だから、みんな(よりカッコイイ)自動車が欲しかったのだ。
「たまり場」で、なんやかんや言い合ったりするツールとして自動車があったのではないか。
そして、みんなで移動できてぶっとばして楽しい。これに当時の若者はビビッときたんではないか。
本当は、自動車は移動のための手段だが、当時は移動+αの効果が期待できたのだと思う。
しかし、今現在、純粋に現地待ち合わせ現地解散になると、他人の自動車なんか見る機会すら無い。
タクシーで来ようが、電車で来ようが、自家用ヘリで来ようが、待ち合わせ場所に横付けしない限り、誰が何を使って来たのかなんてわからない。
更に言えば、待ち合わせ場所の特定すら必要ない、近くに着いたら連絡する。それでOK。だから、そもそも何を使って来たかなんて興味がない。
これは当たり前のことだ。だって、目的はUSJやディズニーなどのアトラクションだったり、海や山で遊ぶことなんだから。
スマホでダチに「あしたディズニいくべ」→当日スマホで「ワールドバザールアイスなう」→遊ぶ→現地解散
この流れの中に、自動車が必要なのか?都会では完全に不要だろう。
しかし、地方では必要かもしれない。ただ、地方都市だと個々人の移動距離がとても大きく、一番遠くの人から順に拾っていく方式か、中間地点に一回集合する方式をとった方が経済的。
よほどクルマ好きな集まりで無い限り、現地に各々の自動車で集合にはならない。でも、イマドキ根っからのクルマ好きなんて、予想以上に居ないものだ。
つまり、田舎にはまだ「ゆるいたまり場」が存在する余地は少しある(見せびらかすほどでは無い)が、都会には全く無いのである。
若者のトレンドは常に大都市から発信される
ここで重要なのが少子高齢化。
そもそも日本の人口の半数以上は都市に住んでおり、若者に限れば大部分が都市に住んでいる(体感7割以上)。元々少ない若者なのに、地方の集落に好んで住む若者は更に少ない(マジで地方に若者が少ない、ヤバイ)
だから、若者のトレンドが地方から発信されることは、はっきり言って「皆無」。トレンドは常に大都市から発信される。
前述のように、地方ならまだしも、大都市部のトレンドが「とにかく自動車最高」になど、なるわけがない。
だから、当分の間「若者の間で自家用車があこがれ」になることは考えにくい(てか、たぶんもう無い)。
「たまり場」時代を生きてきた、中年層や壮年層については、古き良き時代的な思い出があるので「カッコイイ自家用車最高」みたいな人がたまーにいる。
けど本当に、たまーにいる程度で、普通はいない。オッサンオバサンは、もう「スケベ心」が減衰しているからイキオイないし、もはや、そこまでこだわるパワーなど無いのだ。
これらのことを考えると、イマドキ「自動車が欲しい」という需要は、地方の通勤と実需(運送業)がメインなのである。
そして、実需はランニングコスト(耐久性)が最も重視されるため、流行りやファッション要素など微塵も無い。
ここで次の要素が重要になる。
自動車の基礎性能が向上
自動車(車体)の交換サイクルを考えてみよう。
1970年代以前
数年~5年程度で交換(というか超高額な修理)。廃車レベルの故障が日常的に起きる。
オイルショックの影響もあったのだろうが、この時代の車は平成にはほぼ絶滅した。基本的には金持ちしか買えない(=富の象徴)。
1980年代
7年程度は乗れる。しかし定期メンテナンスは必須。
補機類の耐久性が低い。走行8万キロは鉄クズ扱い、ほぼ無価値。AE86のクオリティでさえ、1990年代前半は投げ売りされていたほど(他のクルマはもっと酷い価格)。
1990年代
10年程度は乗れる。しかし車体と電装(アナログ方式の電子制御)が弱い印象がある。タイベル交換で処分する人が多く、9万キロの車両は、どんなクルマでも1桁で買えた。
あれだけ売れた初代エスティマでさえ、2000年代後半くらいを境に激減したため、やはり10年が限界だったのだろう。
2000年代
13年程度は乗れる。耐久性が高く運動性能も高い。が、電子制御(徐々にデジタル制御化された)がショボく、壊れやすい印象。
あり得ないくらい売れた初代フィットは2013年ころから減ってきた一方、初代デミオは2013年ころ激減したため、13年くらいが限界だったのだと思う。
2010年代
不明。まだ交換する人がいないから。
年々交換サイクルが伸びている
もう間違いなく伸びてる。特に2000年代の伸びが重要。
1990年代に新車を買った人は、10年チョイ乗って廃車にするケースが多かったから、2000年代の整備需要は1990年代の自動車がメインだった。
「1990年代以前の自動車」で、よく整備されていた項目を列挙してみよう・・・
いわゆる消耗品(定期的に交換が必要)
- エンジンオイル
- オイルフィルタ
- ブレーキフルード
- ブレーキパッド
- スパークプラグ
- LLC
- 電球
- Vベルト
- エアクリーナー
- バッテリ
- タイヤ
- クラッチディスク
保証期間終了後に交換が多い部品(耐久性が高い消耗品)
- 等速ジョイントブーツ
- タイロッドエンドブーツ
- ドラムブレーキシュー
- ブレーキ系ゴム部品
- エンジンシャフト系ゴム部品
- タイミングベルト
- スタータ
- オルタネータ
- ハブベアリング
- エアコン
- パワステ
- パワーウインドウ
- 燃料ポンプ(特に機械式ディーゼル)
- ワイパーユニット
その他部品(90年代以前はよく壊れた)
- キャブレター
- ディストリビュータ
- 点火コイル
- 燃料ポンプ
- デフ(ホーシング車のドライブシャフト)
- エンジン(現代ではあり得ないが日常的に壊れていた)
- ミッション
とまぁ、思いついただけでこんなにある。
これだけ交換需要があれば、整備でメシ食っていくには十分だろう。付随した調整需要もある。
だから、2000年代はなんとかやっていけた。ところが、2000年代後半に異変が訪れた。
部品の品質も劇的に向上
電子制御化、ハイブリッド化に加えて、部品自体の高性能化が急速に進み、消耗部品が大幅に減った。
具体的には何がどう変わったのか? 俺は以下のように考える。(独断と経験による)
いわゆる消耗品
新→旧でどう変わったのかを併記。
- エンジンオイル
3千Km毎に交換しないと焼付く→1万5千km毎でもまず壊れない - オイルフィルタ
2回に1回(6千km毎)→2回に1回(3万km毎) - ブレーキフルード
車検毎→車検毎(変わらず) - ブレーキパッド
5万km程度が限界→10万kmいける場合が多い - スパークプラグ
1万~2万km→10万km(白金イリジウム) - LLC
車検毎→7年又は16万km(トヨタスーパーLLCの場合) - 電球
数年→自動車(ボディ)が先に壊れる(LED化) - Vベルト
2~3万km→最大10万km程度(廃止、リブベルト化) - エアクリーナー
5万km毎→5万km毎(変わらず) - バッテリ
2年毎→2年毎(利用状況による、ハイブリッド車の12V用は数倍もつ) - タイヤ
数万km→数万km(走りかたによる) - クラッチディスク
0~10万km→0~10万km(個人差極大。現在MTはほぼない)
保証期間終了後に交換が多い部品
- 等速ジョイントブーツ
6万km→自動車(ボディ)が先に壊れる(2000年ころから切れないタイプになった) - タイロッドエンドブーツ
8年程度→8年程度(乗り方というより保管方法による?) - ドラムブレーキシュー
10万km程度→10万~20万km(フロントが高性能になったからか?) - ブレーキ系ゴム部品
4年程度→ほぼ交換なし(10万kmは余裕) - エンジンシャフト系ゴム部品
8年程度→ほぼ交換なし(10万kmは余裕) - タイミングベルト
10万km~14万km→ほぼなし(チェーン採用車激増) - スタータ
8年程度→ほぼなし(アイドルストップの影響で超強化。ハイブリッド系は部品自体がない) - オルタネータ
9万キロ程度→ほぼなし(ブラシの性能が大幅アップ) - ハブベアリング
8万キロ程度→ほぼなし(圧入非分解タイプが大半) - エアコン
8年程度→もはや、事故以外で壊れたという話を聞かない - パワステ
8年程度→ほぼなし(電動パワステはメンテフリー) - パワーウインドウ
10年程度→10年程度(車種によってバラつき大) - 燃料ポンプ(機械式ディーゼル)
10年程度→壊れた話を聞かないがコモンレールは日が浅く未知数。 - ワイパーユニット
13年程度→壊れた話を聞かない(90年代車はリンクがよく割れていた)
その他部品
- キャブレター
数年→廃止(分解清掃すると治るから利益出しやすい) - ディストリビュータ
5年~8年→廃止(キャップが割れるか電極摩耗) - 点火コイル
数年→ほぼメンテナンスフリー(壊れやすい車種は一部ある) - 燃料ポンプ
10万km→ほぼメンテナンスフリー(90年代以降壊れることはまれ) - デフ(ホーシング車のドライブシャフト)
数年でOH→乗用車はほぼ廃止(採用車でもシールは超強化済) - エンジン
10万km→壊れることは非常に少ない(ロータリーは除く、もはや無いが) - ミッション
10万km→2000年以降のATはまず壊れない(MT車は乗り方によっては壊れる)
・・・ということで、基本性能が激烈にアップ、メンテナンスが必要な部品はかなり少なくなった。
ここで、現代基準に当てはめて、目安となる7年7万キロ(3回目車検)を無交換で通過できるものを除いてみよう。すると以下が残る。
いわゆる消耗品
- エンジンオイル
- オイルフィルタ
- ブレーキフルード
- エアクリーナー
- バッテリ
- タイヤ
保証期間終了後に交換が多い部品
なし
その他部品
なし
7年7万キロの部品交換回数
総合計回数は以下のようになる。
- エンジンオイル 7回(1年毎の場合)
- オイルフィルタ 3回
- ブレーキフルード 3回
- エアクリーナー 1回
- バッテリ 2回~3回(ハイブリッドは0か1回)
- タイヤ 1回~2回
7年乗ってもこれしか交換部品が無い。
しかも、これは十分なパフォーマンスを発揮できる余裕をもった数値である(メーカーの推奨値に近い)。
仮に以下のように減らしてもほとんど問題など出ないだろう。
- エンジンオイル 7回(1年毎の場合)
- オイルフィルタ 2回
- ブレーキフルード 2回(高性能タイプ)
- エアクリーナー 0回(清掃)
- バッテリ 1回(ハイブリッドは0か1回)
- タイヤ 1回
これ全部でいくらかかるのだろうか? おそらく10万円もかからないだろう。
しかも、全て原価率が高い商品(工賃が安い)であり、おそらく純利益は3万も出ない。利益を出そうと値上げしようにも、工数が少なく交換が容易なため、工賃をアップすればDIYでやってしまう人が多いだろう(タイヤ以外は特に)。
もう少し、長く乗る場合はどうだろうか。
13年13万キロの場合を考えてみよう(予想される工賃込の費用を併記、1500ccクラスを想定 2014年時点)
いわゆる消耗品
- エンジンオイル 13回 (20000円)
- オイルフィルタ 5回 (5000円)
- ブレーキフルード 6回 (30000円)
- ブレーキパッド 1回 (15000円)
- スパークプラグ 1回 (15000円)
- (スーパー)LLC 1回 (15000円)
- V(リブ)ベルト 1回 (10000円)
- エアクリーナー 1回 (5000円)
- バッテリ 4回 (50000円)
- タイヤ 2回 (60000円)
保証期間終了後に交換が多い部品
- タイロッドエンドブーツ 1回 (5000円)
その他部品
なし
廃車までの売上期待値が25万円しかない
なんと、保証期間が終わっても通常使用ではほとんど壊れる部品が無いではないか。
このことから、2000年代以降の実用大衆車は、たとえ廃車まで(13年と仮定)乗ってもメンテナンスに係るコストは、25万円程度にしかならないことが解る。
一昔前なら10万kmでタイベル、Vベルト、ウォーターポンプ、各シール、交換をセットでやっていたものだ。
これらが全部なくなってしまったのは、かなり大きい。
そして最も重要なことは、これは13年以上乗ろうとした場合であって、13年以下、12年目(13年車検前)で廃車にすればもっと費用はかからないということだ。
新車から廃車まで、整備費用が一台あたり20万円以下ということも十分あり得る。
そう遠くない昔なら、MTのキャブ車、9年9万km時の車検などは、部品交換だけで20万は軽く超えていたものだ。
1500ccクラスで車検見積25万など、割とよく聞く話だった。だから7年か9年で手放して、乗り換える人が非常に多かった。
給料が払えないのではないか
仮に1台あたり10年のサイクル、整備で20万円の売り上げがあったとして純利益はいくらか?
計算してみよう。
前述のとおり工賃が低いため、相対的に原価率は高くなりどんなに仕入れを安くしても10万円程度が限界だろうか。(現実的な線では6万~7万)
すなわち、1台あたり1万円/1年
認証工場は事実上3人以上居ないとできない。仮に利益100万/月が必要だとしたら、率5割と仮定しても最低200万/月くらいは売上が必要だろう(これでも設備代が残るかは微妙)。
年間2400万円 売上がなければならない。
平均客単価が2万円/年の場合、顧客が1200人必要なのだ・・・
月の入庫台数は100台。1日あたり4台になる。しかも、そのほとんどが車検との同時整備になるはず。
はたして、1200人も優良顧客がいる自動車屋ってどんだけあるのか?
いや、そもそも3人の認証工場で、毎日持ち込みを4台/日というのは可能なのか?
そして、認証工場が100店舗あったら、それだけで12万人の顧客が必要になる。
地方都市で存続可能な自動車屋は上位数十店のみ
3人に2人程度自動車を持っている群馬県の場合、例えば、人口約35万人程度の前橋市、全店が超ショボイ3ちゃん農業的規模店であっても、最大200店程度しか存在できない計算になる。
しかし、一般的なディーラーは、最低でも3~5倍の規模はある。従って50店程度が限界ではないだろうか。
ちなみに現在前橋市にはトヨタだけで3社7店+レクサス1店あり
他の大手7社+外車系も各3店程度あるので、それだけでもう30店を超えている。
大手サブディーラー数店以外の中小自動車屋には、はっきり言って勝ち目がないのは明白である。
これでは、潰れるのも無理はない・・・・
ディーラーすら危うい状況かもしれない。板金屋系は事故がある限りいけるだろうけど、入庫予測できないため、かなりの規模がないと厳しいだろう。
頼みの綱は法人(の定期点検)しかない。だが・・・
Webの普及による価格適正化
法人は必ず相見積もりを取る。しかも横の繋がりが強いため、価格にはとてもうるさい。
・・・が、やはりそうでもない、どんぶり法人も昔はけっこうあった。
しかし、WEBによって全て崩壊。どんぶり社長に対してボッタくりできなくなってしまった。これが厳しさに拍車をかけているのではないか。
そして相場が容易に解るため、中古車系も厳しくなってきているようだ・・・
まとめ
これらは自動車ユーザーにとっては、全て良いことなんだけど・・・
全部の店が無くなっちゃったら困るが・・・いや、最低限ディーラーは残るからユーザーは問題ないか。
街の修理工場は2000年代前半の自動車の大半が廃車になる2010年代後半には壊滅するんだろうね・・・
残念だけど、これは不可避だろうな・・・
それと、減った売上をカバーするためか、中古車販売に活路を見出している店があるけど、アレは非常に危ないと思う。
技術の介入度合いの薄い転売スタイルは、最終的に資本の殴り合いになるから。そんなもん、中小に勝ち目なんて無いでしょ・・・
・・・と、思った今日この頃。
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